LIVE FROMのMCや欧州ツアー中継の実況を担当している小松直行アナウンサーが、ゴルフ最新ニュースをピックアップ。小松さんならでは視点からゴルフ界の最新動向をお届けします！

目次：
＊湾岸３連戦を締めくくるドバイ
＊歴代勝者の肖像：ローリー・マキロイ（2009年）
＊小松の小耳

?祝！25周年：オメガ・ドバイデザートクラシック?
マンハッタンのような摩天楼のそびえるアブダビには、ハヤブサをかたどったクラブハウスの偉容が印象的なアブダビGC（2000年開場）があり、岩だらけの白いカタールには岩盤をダイナマイトで吹き飛ばしてつくられたドーハGC（1996年）。そして今週はエミレーツGC（1988年）。アラビア半島初の本格的な芝コースは緑化技術の傑作ともいわれ、海水淡水化など日本のハイテクも大いに貢献している、元祖“砂漠の宝石”。今週は中東３連戦“デザートスウィング”の締めくくりドバイデザートクラシックです。

気象条件の過酷な中東地域も、年明けのこの時期は一年で最も過ごし易くゴルフに最適。世界のビッグネームを集めてきたこの試合は、欧州ツアー公式戦として1989年に第一回が開催され、以来25回め。節目たる今年は歴代チャンピオンの錚々たる顔ぶれが揃いました。

＊ ほかにも、ビッグネームを打ち負かしてキャリア初優勝をあげたリチャード・グリーン（97年）：、ロバート・ヤン・ダークセン（03年）。アメリカから来て勝ったフレッド・カプルス（95年）、マーク・オメーラ（05年）。そして、ドバイが注目に値する勝負の舞台であることを世界に示したセベ・バレステロス（92年）。今年は息子のハビエル・バレステロスが、亡き父に代わって出場します。

?歴代優勝者の肖像：ローリー・マキロイ（2009年）?
『勝ってわかること』
「とんでもないです。この優勝でともかく・・・ワンステップ上がることはできたんだと思いますけど、でもね、もっと上を目指したいんです。努力して向上し続けたいんです。だって、勝つことは、もっと上手くなろうと努力する気にさせるだけですよ。自分がかなりいいプレイヤーになってると思うようになりましたけど、でもまだ僕にはこの先、何年もあるわけですし、もっと懸命に練習して、うまくなれるよう努力し続けたいんです。それができるのなら、いつか対等に戦うことができるだろうと、願っているんです」

この謙虚なコメントは、この試合でキャリア初優勝を遂げた時の記者会見。前年のタイガー・ウッズの優勝スコアである14アンダーよりすごいね、という質問へのローリー・マキロイの答えです。2009年1月末のドバイデザートクラシックを思い出すと、マキロイの初優勝から5年しかたっていないこと、その間マキロイがいかに凄まじい勢いで世界のトップに躍り出たかということをあらためて感じます。

あの5年前の試合の週には“うさぎ”シリーズの作家ジョン・アップダイクが亡くなって、私は自分の欧ツアー中継のノートに次のように書いていました。

この週初めに、われわれはゴルフの語り部の一人、アップダイクを失った。ゴルフでは、技術や経験がどんなレベルであっても、あるとき閃くように手応えを感じる一瞬がある。アップダイク自身がそうであったように、アマチュアはそれを神の啓示の如く受け止め、草ゴルフ道に邁進するわけだが、今週、ローリー・マクロイは、プロにとっての「それ（it）」を感じたかもしれない。これから、勝利を重ねていくことになることは疑いようもない。

世界のトップ・プレイヤーたちが苦労する難コースで、マキロイは19アンダーにして勝ちました。

「うれしいよ。優勝にふさわしいゲームだった。よくやったね」

初優勝を決めるパーパットがホールに沈んだとき、最終組を一緒に回って優勝争いを演じたジャスティン・ローズが祝福と賞賛の言葉をかけました。すでに世界のスタープレイヤーとなっていたローズは、自身17歳10日という当時の史上最年少でウォーカーカップに出場し、1998年の全英オープンで4位タイにはいって世界を騒がせ、全英の翌日にプロ転向してからは、21試合連続カット落ちという辛酸をなめました。10年を経て、同じように鳴り物入りでプロとなったマキロイが、プロとしての38試合目で勝ったことを、しかも自分が優勝争いをしながら目の前でマキロイのプレイぶりをみてきたローズが、「よかった」と喜んだのは、なんだかそれだけでもうれしくなる話でした。

マキロイは、2007年にアマチュア世界ナンバーワンになり、秋にプロ転向してわずか2試合で翌年の年間出場権を確保して見せました。2008年はプレイオフで2度、破れています。9月のスイスでのヨーロピアン・マスターズでは、「お先に」のパーパットを、相手のラインを踏まないように気を遣ったばかりに外してしまいました。勝ったJ・F・ルキャンがバーディーパットを沈めてくれたのが救いでしたが、やはり、まだ何かが足りない印象を残しました。

2度目のプレイオフは3か月後の11月の香港オープン。林文堂（リン・ウェンタン）に破れはしましたが、両者ともトラブルからの信じ難いようなリカバリーショットを連発し、まさに惜敗。19歳の若者の3か月は、その後の人生を左右する何かを得るのに十分な時間だったように感じさせるほどの激闘でした。

年末に世界ランキングが50位以内なら、2009年のメジャー、WGC（世界ゴルフ選手権）のすべてに出場できます。それを目標に、2008年は最終戦、南アフリカオープンに出場。最終日に出だし連続ダブル・ボギーを叩きながら、難コースの7番からの12ホールを6アンダーで上がり抜けて3位タイに食い込み、世界ランキングを39位に引き上げて目標を達成。

そして迎えた2009年、中東3連戦の締めくくりドバイでの初勝利。最初のプレイオフ惜敗から12試合でトップテンが8回。来るべくしての初優勝で、世界ランキングは一気に16位まで浮上。だれもがこのとき、やがて実現する世界ナンバーワンの座を予感したのでした。

北アイルランド、ベルファストに近い人口1万2000人のハリウッドという町で生まれ、ゴルフクラブのバーを切り盛りする父の傍らで遊んでいた頃から、ゴルフはいわば無我夢中、自らの能力を解き放てばよかったのでしょう。しかし、プロとなり、勝つことを宿命づけられて直面したのは、勝利の方程式の心もとなさ、ウィニング・フォーミュラの苦さだったかもしれません。

2009年のドバイで、マキロイはリーダーボードをつねに見てプレイしていました。のこり4ホール時点で5打差のリードがあった。22アンダーまで伸ばして来たのだから、あとはパーを重ねていけば勝てるという自信に満ちていました。しかし、17番まで3連続ボギー。たとえ不安でなくとも、大きなプレッシャーを感じていなかったとしても、パーが逃げていくことのあるのがゴルフです。

ローズがその17番でバーディーをものにして1打差に迫ります。迎えた最終ホール・パー5、ローズはバーディーパットを控えています。マキロイは4打目が池に向かって下りのバンカーショットという状況。何回か深呼吸して、気持ちを落ち着かせてから打って1.2mにつけます。ローズはバーディーならず、マキロイはパーパットを沈めて結着。

2009年のフィールドにはディフェンディング・チャンピオンのタイガー・ウッズこそいませんでしたが、当時世界2位のセルヒオ・ガルシアを筆頭に、ヘンリク・ステンソン、ロバート・カールソン、リー・ウエストウッド、アーニー・エルス、ポール・ケイシー、ジャスティン・ローズ、ジーブ・M・シン、マーティン・カイマー、そのほかコリン・モンゴメリーはじめ過去のチャンピオンたちが勢揃いしている中、マキロイはファーストラウンドから単独首位を保ったまま勝ったのは、やはり実力の証しでした。私のノートの記述には最後にこうあります。

スイングも笑顔も、天衣無縫、天真爛漫。ケルトの面影濃い19歳の若者が、これから、どんなふうにゴルフの歴史に名を刻むのか楽しみ・・・。

ファンには、タイガー・ウッズとマキロイがすでに「対等に戦う」ようになっているように見えます。一人の若いプレイヤーが出てきて偉大なチャンピオンに立ち向かうという構図は、ありきたりのようですが見ていてワクワクしますね。（小松直行）
　

?小松の小耳?
・マキロイの４本ウエッジ作戦：今週は47度、52度、54度、59度のウエッジを入れ、3鉄を抜いて臨むらしい。先々週のアブダビで1打差の２位と新年の好スタートを切ったが、内容は不満だった様子。「いまのボクの飛距離だとグリーンを狙うのは３鉄よりウエッジの方が多い。150ヤードからもっと選択肢が欲しいと思ってウエッジをもう一本入れた」「アブダビではウエッジでもう少し寄せられていたら結果は違っていたと思う」。先週は、ブッチ・ハーモン・アカデミーのあるドバイのエルス・クラブで練習していた。

・マキロイ、ウォズニアッキ、結婚準備進行中：今週、ドバイ最大のショッピングモールであるドバイモールの1階に新たなナイキゴルフの店がオープンし、ローリー・マキロイはそのセレモニーに出席。その後、婚約者のキャロライン・ウォズニアッキと彼女の両親と一緒にディナーに出かけた。セレモニー後の記者とのやり取りで「結婚式の準備をいろいろと始めていて、ホントに待ち遠しい」と語った模様。つまり、婚約しただけではなく、結婚式の方も周囲の予想より早く行われるということか。

・タイガーはブロンコスを応援、なぜなら・・・：週末のスーパーボウルではシアトル・シーホークスとデンバー・ブロンコスが対戦。タイガー・ウッズのひいきはレイダースだが、タイガーは友人のペイトン・マニング（QB）のいるブロンコスを応援している。マニングは首の怪我から復帰し、コルツから移籍したブロンコスで３度目のスーパーボウル制覇を目指す。「ペイトンは怪我のあと再起を疑われたが、怪我を克服しただけじゃなくて、その前よりいい成績を出している。これまでのいろいろな批判をすべて払拭する勝利が見たい」というタイガーのコメントには、“他人事ではない”という響きあり。

・エイマン・ダーシー、マキロイを激賞：1987年アメリカ開催のライダーカップでウィニングパットを沈めたヒーローといえばエイマン・ダーシー（61歳）。アイルランド出身のダーシーはキャリア全4勝の最後の勝利が1990年のドバイデザートクラシックだった。今週、大会25周年を記念して行われた歴代チャンピオンたちのチーム戦でローリー・マキロイと組んだダーシーは、「あらゆるショットを持っている。しかも練習熱心。弱点はない」とマキロイを激賞。意外にも、ダーシーはマキロイとゴルフを一緒に回るのは初めてだったが、「ボビー・ジョーンズがジャック・ニクラスのゴルフを見たとき、あるいはニクラスがタイガーを見たときに、“見たこともないようなゴルフをする”と言ったが、きょうはそんな気分だ」とダーシーは言った。
　資料：http://www.golfbytourmiss.com/category/news/

・初回から連続25回出場記録のバリー・レーン：1989年の第一回以来、毎年この試合に出場という記録を作ることになるバリー・レーン（53歳）。欧ツアーを代表する顔の一人として活躍したレーンは、ドバイの試合も欠かさず参加してきた。この2年間、招待出場させてくれた主催者の心遣いに感じ入っている様子。「そんな試合はあまりない」。いまや世界の檜舞台のひとつとなったこの試合への思い入れは格別のようだが、25年間のドバイの変わりようを振り返っている。「最初の頃は空港からコースまでビルが3つ。あとは何もなかったのに、いまや高層ビルが200だ。8番ティーに立った時の背景の摩天楼には驚いてしまう。初めて来た1989年のときを思い出すからね」。当時使っていたテイラーメードのメタルウッド“ツアープリファード”を練習場に持ち出して、思い出を確かめていた。「いまのボールでこれを打ってもキャリーは219ヤード。30ヤード違う。当時はバラタボールだったから、実際にはもっと差があるだろうね」。
　資料：http://www.europeantour.com/
　

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