歴代勝者の肖像：
イエッペ・フルアール（デンマーク、2009年）


悪天候は楽し
Jeppe HULDAHL(DEN);The Celtic Manor Wales Open　07 Jun, 2009, The Celtic Manor Resort, Newport, Wales

「私としては1番、2番ホールが大きな意味をもった。危なかった・・・、というか1番ではトラブルではなかったけれど も3mくらいのパーパットが残って、それを入れました。2番ではグリーンを外してしまったけれど寄せワンにできました。だから私としては3番で来たバーディーよりもずっ と重要だったと感じます。出だしで踏ん張らなきゃいけなかったんです」

首位で迎えた最終日を、どう戦わなければいけないか、ということを見せてもらった気がする。デンマークの26歳、イエッペ・フルアールは、プロになって6年目で、まだこれといった戦歴もないが、秀逸な勝ち方だった。

試合開始からトータルで70ミリを超える雨が降り注いで進行にも影響がでた。しかし、フルアールがウイニング・パットを沈めたときには、ウエールズの緑の丘の上に初夏の青空が広がっていた。

2打差以内に13人、4打差までに25人、5打差まで32人もひしめく中で、スペインのライダーカップ選手であるイグナシオ・ガリドと、イングランドの人気ナンバーワン若手スター、ニック・ドハティーという、いずれも大試合での優勝経験のあるふたりと首位に並んで出て行った。

ドハティーは前半から崩れた。ガリドが 連続バーディーでのこり3ホール、1打差というところまで迫ったが、16番でダブルボギーを叩いた。2組前の二クラス・ファストが1打差まで追い上げて先に上がった。

フルアールはプレッシャーのもとで4バーディーを決める。それ以上に、讃えられるべきはノーボギーということだろう。とくに、12番からの7ホールをすべてパーにした。途中、リーダーボードは見ていたというが、最終ホール、パー5のティーショットを打った後で、いくつで上がれば勝てるかとキャディーに聞いたという。その答えの通り、5で上がって初優勝をものにした。

バーディーはいつでも喜ばしいだろうが、本人の手応えや気持ちの張りに影響するのは、ボギーにしなかったことだ、というのがよくわかる。冒頭のコメントは3番パー3でのバーディーの意味は大きかったのではないか、という質問への答えである。

フルアールはデンマークのホルステブロ（Holstebro）出身で、2003年にデンマーク・アマチュア選手権（ストロークプレイ）で優勝し、その年の欧ツアーQスクールで3位タイに入ってプロになった。

2004年は22試合に出るが、平均スコア74.5とふるわず、2005年から2008年までを2部のチャレンジ・ツアーで過ごして来た。

その4年間のはじめの3年間はまったくと言っていいほど結果が出なかったが、2008年にノルウェーでの試合で優勝、2位も2度あって、10位で卒業した。2009年は2度目の欧ツ アーということになったわけだが、この試合までの13戦で稼げたのは6試合だけ。この試合に先立つ3試合は連続カットだった。

「今週、初優勝が来るなんて夢にも思っていませんでした」

優勝直後にはそう語ったが、三日目の自分のゴルフには手応えを感じていたはずだ。大雨でサード・ラウンドのスタートは6時間近く遅れ、風も吹いてフィールドの平均スコ アが73.83に膨らんだが、フルアールは68で回った。

「タフなコンディションのときにはたいてい、いいプレイが出来るんです。好きなんでしょうね。今日もたいへんでしたが、楽しかった」

178cm、72kgとあまり大柄ではないし、目立つ方ではないが、したたかなプレイヤーを輩出しているデンマークの7人目のチャンピオンとなった。

ヘンリク・ステンソンは、ファーストネームのつづりから彼のことを“Jeep（ジープ）"と呼んでいたらしいが、これできちんと呼ばれるようになるだろうか。

余談だが、デンマーク語の発音はスペリングからはわかりかねる例が多く、彼の名前 Jeppe Huldahl も、フルアールよりも、強いて書けばイエッピ・フーレル、くらいの感じなのだろうか。デンマーク語の発音に近づけた記述を試みるなら首都コペンハーゲンはケベンハウンで、童話のアンデルセンはアナセンだというから、開き直った英語実況者がハルダールと呼んでいるのを、我々も採用したところで叱られないかもしれないが・・・。