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欧州男子

小松直行の週刊オフチューブ - 夕陽を追いかけろ!ポルトガルの達人たち-

2013年5月27日(月)午前10:00

LIVE FROMのMCや欧州ツアー中継の実況を担当している小松直行アナウンサーが、ゴルフ最新ニュースをピックアップ。小松さんならではの視点からゴルフ界の最新動向をお届けします!

目次:
夕陽を追いかけろ!ポルトガルの達人たち
・歴代勝者の肖像:あの勝ち癖は消えたのかウエストウッド!

ポルトガル・マスターズ
必ず誰かが優勝することほど素晴らしいことはありません。毎週、欧州ツアーの中継を担当していると、物事はせいぜい一週間のうちに結着すべきなのだと思えてきます。

トーナメント・ゴルフの4日間。プレイヤーには練習日と、誰かを喜ばすソーシャルなプロアマが先立って 初日がダメでも二日目があり、思い切ったことのできる三日目があって、最終日の決戦。感染する我々にとって、勝負の綾は見えにくいものですが、ある時点での出来事が勝負を決めたのではないかと、振り返ってみることもしやすい長さですね。

アフリカ、ペルシャ湾岸、アメリカも頻繁にはさみつつ、ヨーロッパをめぐってきた今季の欧ツアーも残りわずかとなりました。今週は日本から見れば西の果て、それでもなじみの深いポルトガル。イベリア半島南端、暖かな海のリゾートが舞台のポルトガル・マスターズです。ファーロ近郊のビラモウラ、オセアニコ・ビクトリア・ゴルフコースで8年めの試合。天気予報は今年も上々。澄み渡る秋空のもと、達人たちの一戦をお楽しみください。

【ポルトガル・マスターズ 放送日時】
1日目: 10月09日(木)午後11:00?深夜2:00
2日目: 10月10日(金)午後11:00?深夜2:00
3日目: 10月11日(土)深夜0:30?2:30
最終日:10月12日(日)深夜1:00?3:00(※最大延長 深夜4:00まで)

歴代優勝者の肖像:リー・ウェストウッド
Lee WESTWOOD(ENG);Portugal Masters18 Oct, 2009, Oceânico Victoria GC, Vilamoura, Portugal

「優勝は習慣であることは間違いない。私はしばらくそれを無くしていましたから、優勝争いをしても勝てなかった。だからこれで、その習慣を取り戻せたと思いたい」

2009年、リー・ウエストウッドはこの試合で久しぶりの優勝。
欧ツアー19勝め、プロとして通算30勝目を遂げた。


このシーズンは、首位で最終日を迎えながら1打差で破れた南ア・オープンに始まり、とくに7月のフランス・オープンでのプレイオフ負け以降、全英オープンを含めて8試合に出て、7試合でトップテンに入り、そのうちの3試合では明らかに優勝争いに絡んでいた。その流れの中でついに来た優勝は、ウエストウッドを賞金ランキングのトップに押し上げた。 プレイを終えてすぐのテレビ・インタビューで、ランキング首位に立った気持ちはいかがかと問われたウエストウッドは次のように答えた。

「素晴らしいです。前にこの位置にいたのはずいぶん昔でしたから、2000年には賞金王になりましたが、以来、10年くらいたちますから。先々週、賞金王となるためには2勝しないと可能性がないって言ったんですけど、これで1勝ですね。優勝っていうのは習慣であることは間違いなくて、私はしばらくそれを無くしていましたから、優勝争いをしても勝てなかった。だからこれで、その習慣を取り戻せたと思いたいですし、年内にさらにもういくつか勝って賞金王を目指します。」

“勝ち癖”というのは自信の別名なのか、そうとも言えないのなら何なのかわからないが、メジャー2勝のグーセンが単独トップで迎えていた最終日に、ウエストウッドは出だしの4ホールを連続バーディーにして首位に立ち、イタリアのF・モリナーリとの争いの中でノーボギー6バーディーの66で逆転優勝を果たした。

13日前に賞金ランキングのトップに立ったR・マキロイや、メジャー3勝のハリントン、好調な今季の優勝者たちのひしめくフィールドで、総額300万ユーロの大試合に勝利したことは、ウエストウッドに久しく失っていた感覚を取り戻させたのだろう。

スコア提出直後に語った「勝ち癖」という言い方には、技術的な失敗が無かったとか、たまたまパッティングがよかったとか、ツキに恵まれたと説明されるよりも、説得力があった。

「前の優勝から2年もたっていますから、やはり、勝ち負けがかかる局面に来ると、自分を少し疑い始めてしまって、結局は勝てないってことになる。だから、これでまた優勝路線に切り替え戻したということで、よかったです」

あらたまった記者会見では、そう語っていた。ゴルフには、ゲームの技術には無関係でありながら、その実、成否に深くかかわる要因があるということか。勝ち癖とは、心の中の不安に置き換わる何か、ということで納得しておこう。

2年1か月ぶりの優勝である。その前は、3年7か月のインターバルだった。しかし、この2つの期間をスランプとは呼べないかもしれない。その前の、ウエストウッドにとって最初の低迷こそ、正真正銘のスランプだったからだ。
御殿場の住友ビザ太平洋マスターズに1996年から3連覇し、宮崎のフェニックスにも勝っているので、ウエストウッドの優勝が習慣性の強いものだということは日本でもなじみ深い。1997年はオーストラリア・オープンに勝ち、1998年はアメリカでも初優勝。アフリカ、アジアも含めて4大陸で勝ちまくっていたのだ。

ヨーロッパではツアー入り3年目の1996年の初優勝から、4年1か月のうちに14勝。年間5勝をあげた2000年には、それまで7年にわたって君臨していたコリン・モンゴメリーを賞金王の座から引きずりおろし、世界マッチプレイにも勝って、ついにヨーロッパの頂点に立った。


その年の11月の半ばから5週間のオフをとった。第一子が生まれるために、2001年の3月から2か月の休みをとり、4月のマスターズも出なかった。そこからウエストウッドは深刻なスランプに陥った。

スウィングのタイミングが取れず、自信を失っていった。世界ランキングは2001年5月の4位をピークに下降し続けて250位を下るところまで行った。27歳の若さで賞金王となったときには、群がるように自分を取り巻いた人々が、よそよそしく背中を向けて離れて行った。その様子を、ウエストウッドは黙って見ているしかなかった。

テロの影響で2002年に延期されたライダーカップは、スランプのさなかでの出場となったが、戦力的にマイナスだと評されながら、この2年に一度のチーム戦こそウエストウッド自身にとっては大きな救いとなった。

結果として、S・ガルシアと組んだ4試合で3勝。ウエストウッドを全試合に出場させ、ガルシアと組ませたキャプテン、サム・トーランスの慧眼こそ称えられるべきだろうが、当時のガルシアの天真爛漫さ、無心ともいうべきプレイぶりが、どん底のウエストウッドに何かを取り戻させたように思われた。


指導を仰いでいたD・レッドベターは、ウエストウッドのスウィング自体に問題はないと断言した。2003年の夏を前に本人も手応えを感じていたようだった。8月のミュンヘンで優勝を遂げたときには泣いていた。ゴルフをやめようと考えたことさえあったんだと言っていた。3試合後のダンヒル・リンクス選手権ですぐにまた勝って、さらに復活を印象づけた。

いよいよメジャー優勝も取沙汰された当時30歳のウエストウッドは、アスリートとしてのトータルな改善を目指した。2006年7月には、マネージャーのアンドルー “チャビー(ふとっちょ)”チャンドラーの計らいで、 体力面から栄養管理まで科学的な取り組みをしていることで有名なサッカーのボルトン・ワンダラーズのバックルーム・スタッフに相談し、指導を受ける。

以前は102cmあったウエストが86cmにしぼられ、筋力は強化され、心肺機能は格段に向上した。フィットネスについて、かつて彼自身は懐疑的だったが、今回の記者会見で「諸刃の剣ですね。どのくらいの成果があったかをはかるのは難しいし、どの程度、害があったかを知るのは不可能」と前置きして、次のように語った。

「若い時は、からだは何があっても壊れないと思えるでしょうが、30歳を越えてみると、やらなくてはならないことがあると思い知るものなんです。タイガーやビージェイ・シンや、トップレベルの人たちはほとんどが、鍛え上げられていて、皮下脂肪は少ない。

私のからだは、好ましい状態であるとは言えなかった。でも、かなりのトレーニングをこなしてきて、いまや非常にいい状態です。

飛距離は伸びて、欧ツアーで十指に入る飛ばし屋となった。この試合の前には80ヤード以内のアプローチが現在の課題だと言っていたが、不得意だったショートゲームは、マーク・ロー(ツアー3勝、2006年に引退)の教えを受けた後、再びピート・コウエンに師事し、かなり充実して来たという。それが、勝利を決めたファイナル・ラウンドで結実したとも言える。この試合で勝負を決めたホールをあげるとすれば17番パー5で、2打めをグリーン奥の花壇の後まで飛ばしてしまいながら、観客の踏みしめた硬いライから立ち木越えで池へ向かって打ち、タップイン・バーディーとしたのだった。

2007年9月にブリティッシュ・マスターズで勝って以来、欧ツアーで44戦、2位が5回、3位が7回。トップテンは23回で、まさにコンスタントに優勝争いに絡んでいたが、なかなか勝てなかった。その原因として目立ったのはパッティングだった。

2009年の全英オープンで、最終ホールにスリーパットしてプレイオフに加われなかったことが象徴的だったが、ここぞというときに決められないことも多かったし、グリーンに乗せる率(GIR:グリーンズ・イン・レギュレーション)はトップ3なのに、4日間のパット数が130で、フィールド中最下位という試合すらあった。

クロスハンドが奏功して久々に勝った2007年のアンダルシア・オープンの後、ハリントンやハウエル、最近ではR・マクロイらも師事するバイオメカニクスの研究者、ポール・ハリアン(Paul Hurrian)博士のもとで教えを受けた。

少しずつ、狙い通りのラインと強さで打てるようになって来たと言っていたが、それもいよいよ結実しつつあるのだろうか。今週の試合でのウエストウッドはパッティングが見違えるように安定していた。

打つまでのルーティンは以前とはまったく変わり、予行ストロークをせず、構えて打つだけの手続きとなり、傍目で見ても安心できるほど自信に満ち、結果も出ていた。最終日はグリーンを2度しか外さず、寄せワン2度の28パットだった。

1973年生まれ、36歳。2009年9月の欧州マスターズの際に、ツアーでプレイするのはとりあえずあと10年だと語っていた。2008年には全米オープンで、さらに2009年の全英オープンで、ともにあと1打足らずでプレイオフに加われなかった悔しさを聞かれ、来年のメジャーでのチャンスについて次のように答えていた。

「楽しみです。自分の何を改善しなければならないか、勝つために何をしなければならないかわかっています」

「それは大それたことではないんです。ツアーでこうやって16年もやっていれば、新たなレベルがあるわけじゃないことくらい、私はわかっていますからね」

何をすべきかわかっていて、勝ち癖も戻ったのなら、ヨーロッパの頂点も、それに比しての苦いスランプも経験し尽くしたウエストウッドにとって、いよいよ、キャリアのピークが形となって現れる時が来るだろう。

(小松直行)

 

<資料>
1)欧ツアー・2009年ポルトガル・マスターズ記者会見スクリプト
2)WESTWOOD EYES MORE OF THE SAME.: Press Association Sport, http://www.sportinglife.com/golf/news/story_get.cgi?STORY_NAME=golf/09/10/19/GOLF_Portugal_Westwood.html
3)The Press Association、
http://www.google.com/hostednews/ukpress/article/ALeqM5hFgWSEJ7J-YjocDWZ0k-HN4991Ng

 

<掲載写真は全て©Getty Images>

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