フルタイム・アマチュア
歴代勝者の肖像：S・ロウリー（2009年)
2009年5月17日： アイリッシュオープン、カウンティーラウスGC
Shane LOWRY (IRE);The 3 Irish Open　17 May, 2009, Co Louth GC, Baltray, Drogheda, Ireland

「もう、それは言いようがありません。だって、私は17のときにアイリッシュ・アマチュアに初優勝をしたんですが、そのときニール ・マンチップ（Neil Manchip； GUI所属のナショナルコーチ）に出会って以来、彼がしてくれたことと言ったら・・・。この優勝は彼のものでもある。ゴルフ・ユニオンには 本当にお世話になりました」

22歳のアマチュアが、自分の国のナショナル・オープンに勝った。私は生中継 をしていて、もしや96年も前の、フランシス・ウィメットの勝った全米オープン(1913)に匹敵する偉業を目の当たりにしているのではないか、ならばいつも通りの口ぶりで適 当に実況するだけでは、事の重大さが伝わらないのではないかと、思っていた。

さりとて、ゲームの方法に特別な違いがあるわけではないし、いたずらに饒舌になって、かえって視聴者をしらけさせてしまってはという躊躇もあり、なんだか煮え切らない 中継になったのではないかと反省される。

いまとなっては、いつも通りやればよかったのだと思えるのだが、とにかく、カウンティー・ラウスの茫漠たるリンクスで、日曜日の午後6時近くになって雨も降りだしたにも かかわらず帰ろうともせず、プレイオフにもつれ込んで一層、熱狂的な応援を繰り広げるアイルランドのゴルフファンの気持ちを思いながら、日本の視聴者とともに歴史のペ ージがつくられるのを見守ったということになる。

もっとも、すでにこの2009年シーズンは、2月に豪でダニー・リー（ニュージーランド）が、アマとしてジョニーウォーカークラシックで勝っていて、すでに2007年のポルトガ ルオープンで、P・マーティーン（スペイン）がツアー史上初のアマ・チャンピオンとなっていたから、もしかすると視聴者は、またか、と感じただけかもしれないが。

　それにしても、いまやプロとトップアマチュアの差はきわめて薄いのではなかろうか。アマチュアがぎりぎりのところまで、プロに近づいて来ているということではないか 。

もちろん、プロが生活や将来をかけてプレイする心境を、私にはいくらがんばっても想像しきれないのだろうとは思うが、アマチュアはいまや、そこへ踏み出すモラトリアム に過ぎないのだろう。

アマチュアとして経験できることはできるだけやっておくべし、というような考え方はもはや説得力を持たないのかもしれない。ダレン・クラークやグラム・マクドウェル、 あるいはローリー・マキロイの言うように、さっさとプロになったほうがいい、やることは同じなんだから、という考え方には納得できる部分もある。

　シェーン・ロウリーの場合は、2009年秋の米英アマチュア対抗戦ウォーカーカップへの出場がほぼ約束されていた。プロの米欧対抗戦ライダーカップよりも古い歴史と伝統 をもち、メンバーに選ばれることは英米のアマチュアとしての最高の栄誉といえるマッチだが、ロウリーは欧ツアー公式戦であるアイリッシュオープンでいきなり、並みいる プロを押しのけて勝ってしまったので、このまますぐにプロ転向するべきかどうかを決めようとしていた。

---（記者会見での質問： ローリー・マクロイが言ってましたよね、どうしてもウォーカーカップに出たいという事でなければ、いますぐにプロ転向したらいいじゃないかっ て。それはついこの間、ダレン・クラークがマクロイに言った事でもあるわけです。ゴルフをするために世界中を回るのなら、どうしてお金をもらう立場にならないんだって 。いま、あなたはどう思いますか？

SHANE LOWRY: アマチュアでいると、欧ツアーの試合に出場するのはそう簡単なこととではありません。一方で、ウォーカーカップに出る事は、プロになったときに履 歴書の業績としては見栄えがいい。だから、これまでもみなウォーカーカップに出たいわけです。大きなイベントですからね。誰もが興奮し、話題にする大舞台です。う?ん 、わかりません。明日まで考えます。

---明日までに難しい決断をするという事ですね。では、いまの時点では、気持ちはどちらに傾いていますか？　つまり、現時点ではどちら の選択肢もありうるのだろうと思われますが。

SHANE LOWRY: ええ、おそらくコリン・ダルグリーシュ（2009年ウォーカーカップ・キャプテンン）もそう考えていると思いますから、まず、彼に相談します。ウォー カーカップの関係者にはこの2年間、とてもお世話になりました。

歴史と伝統のためにゴルフをしているのではないと、若いゴルファーが考えたって奇妙ではない。大事なのはお世話になった人たちの気持ちに応えることにすぎず、ロウリー もそこだけをクリアすべき条件にしていたようだ。

　冒頭は、あなたにとってアイルランド・ゴルフ・ユニオンは何をしてくれたと思いますか、という問いへの返答である。

SHANE LOWRY:トップ・アマチュアとして競技に専念するようになってからは、ユニオンの人たちとあちこち一緒に行きました。あらゆる試合で、彼らはたいへんな助 けとなってくれました。

税金でプロを育てる
　プロの側からみれば、アマチュアでいた時の方が注目され、アマチュア組織から手厚くサポートされていたのに、プロになった途端、放り出 されたようにも感じるのではないだろうか。それをプロの厳しさと呼ぶのは簡単だが、ゴルフにとって、それでいいのかどうか。

　そのあたりを、アイルランドではストレートに解決しようとしている。国が若手駆け出しのツアープロを経済援助しているのである。

2009年には18名のプロに合計23万1000ユーロ（約3,175万円）が分配された。最高額で2万ユーロ、約300万円が供与され、それを資金に欧州ツアーで、30万から50万ユーロを超 える優勝賞金をかけて戦っているわけである。ティーム・アイルランド・ゴルフ・トラスト（Team Ireland Golf Trust）という、すでに発足して10年になる制度だが、全米オ ープン連覇でメジャー3勝のパドレグ・ハリントンをはじめ、ポール・マギンリー、ピーター・ローリー、ダミエン・マグレインがこの制度をキャリア初期の脚がかりにして、 ツアーでの優勝を勝ち取っている。

　2009年にポルトガル・オープンで初優勝を遂げたマイケル・ホウイも2008年には資金援助を受けていた。ゴルフ・ツーリズムの目的地としてのアイルランドを、国際的にPR することを明確に掲げたこの制度は、着実に成果を上げているように見える。

　さて、S・ロウリーは、結局、週明けにプロ転向を表明した。アイリッシュオープンの優勝賞金は50万ユーロというツアー屈指の高額だったが、優勝の栄誉だけを胸にプロと してのスタートを切ることになった。トラストの世話にならずに稼いでいけるかどうか期待しよう。 　一方で、プロはアマに肉薄されて強烈な自意識をもてなくなっているのではないかと心配もされる。仕事場としての試合は世界中にある。2部、3部、ミニツアーという、レ ベルの多層化も進む。ゴルフの競技者として、すべてをかけて極めてみたいという思いは、その者の力量の位置によっては焦点を失いがちであろうことは想像に難くない。あ やふやなプロがあふれてしまうのも、現代のゴルフの輝かしさの反面の陰、なのだろうか。

<資料>大会インタビュースクリプト