LIVE FROMのMCや欧州ツアー中継の実況を担当している小松直行アナウンサーが、ゴルフ最新ニュースをピックアップ。小松さんならではの視点からゴルフ界の最新動向をお届けします！

目次：Ｄ+Ｄレアル・チェコマスター
過去勝者の肖像：オスカー・ヘニンソン（2009年チェコオープン)

今週も新規試合です。第一回チェコマスターズ

年を追うごとに大陸ヨーロッパを東に進んで新たな開催国を巡ってきた欧州ツアーも、すでに極東までユーラシア大陸横断。公式戦開催の舞台となっていないのは日本だけのようにも見えます。今週はドイツの東側、チェコ。すでに1994年から1997年、さらに2009年から2011年までのチェコオープンが欧州ツアー年間日程の一部になっていました。今年は3年ぶりに新たな試合としてチェコマスターズが設定されています。

舞台は首都プラハ近郊、市街から30分のアルバトロス・ゴルフリゾート。英国出身、オーストリアやチェコのコースを多く手がけているキース・プレストン設計、2009年開場。「ゴルフは美しい自然の中で、その自然の要素が生み出す挑戦、そして喜びのためにプレイするものであり、同時にゴルファーの中に一体感と調和をもたらすもの」という設計思想を掲げているプレストンによるコースで、どんなゴルフが見せてもらえるのか楽しみです。

今週はなんといっても天気がよさそうで何より。プラハの夏は平均最高気温が23度程度で、とくに8月は雨の多い月ですが、今週は雨の心配はなさそうです。このところ例年より涼しいようですが、今週は5週間後のライダーカップ出場を狙うジェイミー・ドナルドソン、スティーブン・ギャラカー、ヨースト・ラウテン、そして全米プロで最終日にＲ・マキロイと回ったバーント・ビースバーガーが出場するので、さわやかな天気のもとで熱く盛り上がることでしょう。

【ディーアンドディーレアル・チャコマスターズ放送予定日時】
１日目：8月22日（金）午後5：00?7：00
２日目：8月23日（土）午後5：00?7：00
３日目：8月24日（日）午後5：00?7：00
最終日：8月25日（月）午後4：00?6：00

チェコ共和国のゴルフ
カレル・チャペックは好きでも、チェコのゴルフについては実はほとんど知りませんでした。アレックス・チェイカというプレイヤーがチェコ出身で、1980年、9歳のときに父と一緒に国を脱出し、南側からユーゴスラビア、イタリア、スイスを経て、最後はライン川を渡ってドイツに亡命したというストーリーは聞いてましたが、つい最近まで共産圏だったこの国が、じつは19世紀から続くゴルフの歴史を有していることは、あらためて知りました。

チェコ観光局の公式ウエッブサイトによれば、1898年、プラハのツィーサシュスカー・ロウカで、はじめてゴルフが催された、ということです。詳しい状況はもはや歴史の中で蒼然として霞んでしまいましたが、チェコのゴルフも世界の多くの場所と同様、19世紀末に始まったということになります。

ゴルフ史書を見ると、1899年のプラハの、ふだんは競馬の行われている王室御料地で、何人かの男たちが小さな白球をクラブのような形状の棒で打ち、赤い旗で標された穴に落とし込んでいるのが目撃されていた、と書かれていました。
でも、チェコ最初のコースはプラハではなく、テプラー川の谷あいにある名だたる温泉地カルロヴィ・ヴァリの、王室の庭園内につくられた9ホールだとのこと。ボヘミア西部のもう一つの有名な温泉地であるマリアーンスケー・ラーズニェにも9ホールのゴルフ場がつくられ、1905年8月21日、英国王エドワード7世の列席の下にオープニングの祝典が催された模様。どうやらこのあたりがチェコでの本格的なゴルフの事始めであろうと考えられています。現時点で、国内98コース（欧州ゴルフ協会、2014年）。共和国政府はゴルフ観光に力を入れており、「ゴルフ共和国へようこそ（ Welcome to the Golf Republic!）」と謳っています。

旧東欧チェコ・スロバキアは1993年に分離し、いまや中欧と呼ばれます。国土は東西に細長い六角形、北はポーランド、東はスロバキア、南はオーストリア、西はドイツと国境を接します。ゴルフシーズンは3月末に始まり11月中旬までとのこと。3年前の情報ですがプラハには大型の室内練習場が2軒ある、と観光庁のサイトに誇らしげに記されていました。今週は9名のチェコ人プレイヤーが出場ます。先のチェイカは、亡命先のドイツでゴルファーとなり、欧ツアーで4勝。2003年から米でプレイしていますが、チェコを出なければプロゴルファーとはなっていなかったでしょう。去年、チェコ出身者として初めてマレク・ノビというプレイヤーが欧州下部ツアー、チャレンジツアーのカードを取得しています。今後は、大陸ヨーロッパを東へ進んで来た欧ツアーの最先端として、生え抜きのヒーローが生み出されてくることに期待しましょう。

過去勝者の肖像：オスカー・ヘニンソン（スウェーデン；2009年モラヴィア・セレシア・オープン優勝）
月曜の朝、ここへ来たときに勝てると思った
「月曜の朝、ここへ来たときです。先週のスウェーデンでは、かなりいいゲームが出来たと感じていたし、そのままで行こうと考えていました。ここ数週間、ほんとに好調なんです。優勝争いの経験はありますから、それができるのはわかっていました。まあ、今年中に勝ちたいと願ってはいましたが、こんなに早いとは思っていませんでした」

前週、自国のSASマスターズで4位タイに入り、自動車で父ロルフさんと10時間かけてチェコへ来たオスカー・ヘニンソンには、24歳の誕生日を前にして勢いがあった。二日目まで首位から5打差につけ、最終日は3打差から出て行って6バーディー。後続上位陣に3打差リードで18番453ヤード・パー4へ来た。ティーショットは左のラフ。池越えでグリーンに乗せるのは無謀に思われたが、ヘニンソンは6鉄を握り、何も臆することの無いように振り切った一打をグリーンに着弾させた。

「17番を終えた後で初めてリーダーボードを見ました。それまで見なかったんです。18番のティーに上がる前に見て、3ストローク、リードしていた。池越えを狙うこと以外のどんな方法も、思いもしませんでしたね。自信を持ってグリーンの乗せられるなと感じていましたし、ライはまずまずだったんです。それほど難しいショットであるとは感じませんでした」

5歳のときに父と兄のゴルフについていって、ラフでロストボールを拾い出すのが面白かったという少年が、8歳からプレイするようになってナショナル・ティームに入り、2004年に19歳で欧ツアーのQスクールを受けてプロ転向。その年も翌年も、年間出場権を手に入れるまでには至らなかったが、3部ツアーであるノルディックリーグで腕を磨き、2008年には3度目の挑戦となったQスクールで、9月初めの1次に初日9アンダー63のロケットスタート、4ラウンド計21アンダーで完全優勝の勝ち上がり。2次には最終日に65でトップに1打差の5位通過。ファイナルでは最初の4ラウンドをアマチュア・ランキング世界ナンバーワンのダニー・ウィレットと抜きつ抜かれつのデッドヒート。残る2ラウンドで失速したウィレットを尻目に69を重ね、2位に4打差を付けて圧勝した。

1976年に始まった欧ツアー・クウォリファイイング・スクールの33年の歴史のなかで、1次から勝ち上がってファイナルで優勝したのはヘニンソンが初めてだった。

そしてチェコでのこの優勝で、Qスクール優勝後のルーキー年に初優勝を遂げた3人目のプレイヤーになった。ちなみに一人目は1981年のQスクールで勝ったゴードン・ブランド JR（スコットランド、欧8勝、ライダーカップ2度出場）。2人目はホセ・マリア・オラサバル（スペイン、欧23勝、マスターズ2勝）。その二人に並んだのだから、前途が大いに期待される記録である。

冒頭のコメントは、「この試合では勝てる」と最初に思ったのはいつですか、という質問への答えである。自分の好調さへの満足感のなかにも、自信と裏腹な不安が表れているようで、23歳という若さを思えば好感が持てる。自分なりにハードワークはこなしていても、はたしてそれは結果をもたらす最善の道なのか。自分の才能や可能性を信じてはいても、世界の強者たちを相手に戦って勝てるだけのものなのか。夢と野心、願いと不安は誰にでもあるが、それで考え込まずに突っ走ることができるのは、やはり若さならでは、ということだろうか。

もっとも、ヘニンソンは欧ツアーの年間出場権を獲得していながら、大学へ行って哲学の講義をとり、時間があれば思想関係や歴史の本を読んでいるとのことだった。スウェーデンからは今をときめくスタープレイヤーたちが多く出ているが、ヘニンソンは誰もモデルにしたことはなかったという。自分がプレイすること以外には、あまりゴルフには興味が無かったと語った。その後5年になるが、これといった優勝争いもなく、下部ツアーに落ちてから、昇格する気配もないが、久しぶりのチェコでの試合が復活したとあって、今週は招待されて出場する。勝利について、あるいはゴルフについての彼なりの考え方が、その後、変わったのかどうか、話を聞いて見たい。インタビューされるようなスコアを出してもらいたいところだ（小松直行）。