歴代勝者の肖像：
サイモン・ダイソン（イングランド、2009年）

2009年8月23日：KLMオープン、ケネマーCC、ザントフォールト、オランダ
Simon DYSON (ENG);KLM Open23 Aug, 2009, Kennemer G&CC, Zandvoort, Netherlands


「信じられませんよ。 グリーンこそ違いますが、 実際、ほとんど同じパットでした。同じラインに、同じスピード、すべて同じだったんです」

サイモン・ダイソンはサドンデス・プレイオフのひとホール目で勝負を決めたバーディーパットについて、興奮覚めやらぬといった様子で冒頭のように語った。かつて同じパットを沈めたという確かな感覚があったのだ。

先立つ3年前、2006年8月13日に、ダイソンはこのコースでこの試合に勝った。それも、同じようにプレイオフのひとホールめでバーディーをものにしての逆転勝利だ。その年に12番として使われていたホールが、今年は最終ホールとなっていたが、あとはほぼ同じ状況設定でのウィニング・パットとなった。　前回は3打差、今回は6打差の逆転優勝である。 ダイソンは強い風の吹いた初日、1イーグル1バーディーで回り、自己ベストといえるほどの手応えを感じていたという。二日目も3バーディーで、最初の36ホールをノーボギーで回り、同じ組だった地元オランダのルーキー、インダー・ファン・ビーレルトをうならせた。

三日めにはボギーが２つ来たが、初日と同じ12番でイーグルをものにし、二つのバーディーで68。そして、最終日は最終組の6組前を、ノーボギー、7バーディーの63で回ってクラブハウスリーダーとなった。

「3年前と本当に同じような最終日でした。出だしがよくて、フロントナインで4アンダーにして、その勢いに最後まで支えられました。10番ティーに立った時、私は3年前に思ったことと、まったく同じことを考えていました。あと2つか3つ、バーディーを取れるだろうかと自問していたんです。それこそ、私がやってのけたことでした。」

ダイソンは1999年、ウォーカーカップに出た後の9月にプロ転向。欧ツアーのＱスクールは失敗するが、2000年1月に亜ツアーのＱでカードをとるや、マカオ・オープンとチャイナ・オープンで2週連続優勝。年末の香港オープンでも勝って、いきなり賞金王に輝いた。もちろん、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーと新人賞もものにしている。

その香港での勝利の直後にヨーロッパに戻ってＱスクールのファイナルを戦い、さすがに疲れがスコアに出て2ラウンド目、3ラウンド目は80、75を叩きながらも、108ホール目のバーディーで33位となり2001年の年間出場権を手に入れた。

欧ツアー初優勝は5年後の2006年、亜ツアー共催のインドネシア・オープンで、熱帯アジアに強いところを見せたが、5か月後のオランダKLMオープンで、欧州での初の優勝を勝ち取った。

「3年前のこの日は私の生涯最良の日でしたが、きょうはそれを遥かに上回ります。」

アジアから颯爽と欧ツアーへ戻って来て、5年間は勝てなかったが、ゴルフが終われば仲間たちと楽しくやるのが一番だと考えていたらしい。しかし、仲のいいケネス・フェリーがジムへ通い始めて身体をしぼり、その結果として初優勝を遂げたり、ニック・ドハティーが、パーティー・アニマルの生活を悔い改め、フィットネスに精を出すようになって初優勝をものにしたのを目の当たりにして、ゴルフに真剣に取り組むようになったという。その成果が2006年の2勝だったわけだが、一気にブレイクして勝利数を増やしていくかに思いきや、なかなか実現しなかった。

2007年は最終戦ボルボ・マスターズでJ・ローズとのプレイオフに破れた。2008年は得意のアジア、マレーシア・オープンで、最終日16番をボギーにして、ヘブロムとA・アトワルのプレイオフに加われなかった。2009年の今年も、春先のインドネシア・オープンで2打差の2位だった。
今回は、ストイックな節制が、かなり早めに実を結んだといえるかもしれない。

「ええ、2週間前にスペインで休暇を楽しんだ後、よし、今シーズンの残りは全力投入だと決意したんです。カフェインをすべてやめました。これは私にはかなりキツイことなんですが、いまはなんとか水とオレンジジュースで行ってます。まあ、今夜は何杯かビールを飲んで祝いますが、その後はトレッドミルの上に戻って、出来る限りの努力をするつもりです。」

ところで、優勝争いというなら、最終組のふたりが主役だったことは間違いない．2打差の単独首位で最終日を迎えていたピータ・ヘブロムを、一緒に回るピーター・ローリーが前半に5バーディー2ボギーというゴルフで追い抜き、12番パー5のバーディーでトーナメント・リーダーとなったが、16番でボギー。10番のボギーで後退していたヘブロムは15番、17番のバーディーで追いつき、1時間前にあがっていたダイソンとのプレイオフとなった。

ヘブロムとピーター・ローリーは、2003年のスペイン・オープンのプレイオフでケネス・フェリーに破れているが、6年後の今回もふたりして破れてしまった。

ちなみに、ケネス・フェリーはダイソンの親友の一人で、先述したようにダイソンはかなり影響されたという話だ。二人のピーターはどうやら2度も、イングランダーの決意と努力に花を添える役回りとなってしまったようだ。欧ツアーではこうした綾も、無数に絡み合っていて興味の尽きることはない。（小松直行）