Simon DYSON (ENG);Alfred Dunhill Links Championship 04 Oct, 2009, Old Course, St Andrews, Carnoustie & Kingsbarns, Fife, Scotland

「これはもう勝ち試合だと思いました。始めからああいうゴルフだったので、これはもらったと思ったし、実際にそうでしたね、私が何かしでかさない限りは。だから、とにかくそのままのプレイを続けたんです。」

最終ホール18番グリーンでラインを読んでいるとき、同伴競技者のダレン・クラークがダイソンに向かって言ったという。
「じっくりやれよ」
「なぜだい？」
「これ以上のものは、ないからさ」
クラークの言った通りだ、まったくそうでしたよ、ベリーグッドですと、開口一番、上気した様子でダイソンは言った。

インタビューの受け答えはまじめだがいつも陽気で、言葉遣いは俗っぽくて少しせわしないくらいだが好感が持てる。先立つ6週間前、オランダで、3年ぶりに優勝を遂げてからまったく休まずに突っ走って来て、また勝ったさまは、まさにダイソンの印象そのもののようだ。

普段からダイソンはテンションが高い。183cm、76kgでそれほど大柄には見えない。睫毛がブロンドであるせいもあって目がとても大きく見えるので、少しとぼけた印象があるが、コース上ではつねに大股でさっさと歩き、打った後には自分のショットについてあからさまにキャディーに話す。勝負がかかってくると、それらが生き生きとした印象を生む。天性の競技者たるキャラクターだ。

さもありなん、祖父は騎手、父ジョンさんはブックメイカー、プロ・サッカー選手だった叔父のテリーさんはロンドンのトッテナム・ホットスパーFCで1960年、61年に連続で英国リーグ、およびFAカップ優勝を果たした時のメンバーだから、勝負師の血統なのだろう。ダイソン自身も期待のサッカー選手だったらしいが、兄ニックさんの勧めでゴルフに転向し、16歳でスクラッチになったという。

この試合はプロアマ戦も同時進行するユニークな形式で、ダイソンのパートナーであるプロサーファーのケリー・スレイターは、「彼はすべてにおいて前向きで、ハッピー。心の持ち方が、今週はずっと本当に素晴らしかった」と評していた。

同じ記者会見場に招かれて飾り気の無いコメントをしていたスレイター自身、37歳、ゴルフ歴15年、HC5というしっかりしたプレイヤーで、5年連続を含め9度もナンバーワンになっているスーパー・アスリートだからだろう。ゴルフの歴史そのものとも言うべきセント・アンドルーズ・オールドコースで、プロたちが、シーズン大詰めのこの時期に勝負をかけて最終日を戦っているさなかにも、遠くグリーンを眺めているスレイターの姿は落ち着いた存在感を漂わせていた。プロアマ戦は3位に入った。

ともあれ、サイモン・ダイソンも、波に乗ることにかけては欧ツアー随一だ。2000年の亜ツアーで、マカオ・オープンとチャイナ・オープンを2週連続で優勝。その年（2000年）の暮れの香港オープンでも勝って年間3勝を遂げ、賞金王、新人賞、最優秀選手賞に輝いたのがプロとしてのキャリアの始まり。欧ツアーでは、2006年にインドネシアでの初優勝をものにするや、オランダでも勝って年間2勝。

2009年はカフェインとアルコールをやめてダイエット、フィットネスに取り組み、その成果は短期集中的に現れている。7週間で6試合にでて2勝、オランダで勝った翌週こそ56位タイに終わったが、つづくスイス、ドイツで7位タイ、3位タイ。さらにセベ・トロフィーでは食あたりにやられて棄権も考えたというが、コース上ではいつも通りエネルギッシュで、4つのマッチの2つに勝っている。

リンクス的な要素に満ちたオランダのケネマーG&CCで2度、勝っているというのもリンクスに強いことの表れだったかもしれない。カーヌスティー、セント・アンドルーズ・オールドコース、キングスバーンズ、という3つのリンクスを一巡して、最終日にオールドコースに戻って決戦となるこの試合で、ダイソンは初日から68-66-68というスコアで順位を上げていった。

サードラウンドが強風のために中止となったので、月曜日にずれ込んだファイナル・ラウンドを、ダイソンは単独首位のL・ドナルドに1打差で迎えた。同じく1打差のR・マクロイがドナルドとの最終組で、ダイソンはクラークとともに、ひと組前だった。

気温は10度を超える程度で、曇りがち。ただ、オールドコースの風は土曜日に吹くだけ吹いてしまったというほどに穏やかで、誰もがロースコアを期待しながら出て行ったはずだ。

しかし、スタートダッシュは誰もダイソンにかなわなかった。1番、2番でバーディーをものにした後、4番から4連続でとって、出だしの7ホールで6アンダー。ドナルドは64で回った前日の切れ味を失い、マクロイもいまひとつ冴えず、ダイソンは8番ティーに上がる時には4打差の単独トップに立っていた。

ダイソンを奮い立たせ、燃え上がらせるものは、何なのだろうか。

親友のニック・ドハティーが2007年にこの試合に勝ったとき、うらやましいと思ったとは言っていたが、今週はどのくらい、励みになっていたか、という という問いに対して、ダイソンは「いや、正直な話、まったく考えなかった」と言った。冒頭は、それに続く答えである。それは、来年のライダーカップ初出場ということについても同じで、試合が終わって初めて思うことであるらしい。

「いや、まったくありませんでした。まったくなし。繰り返す毎日の中では、この試合はこの試合、でしょう？　私はなるべくライダーカップみたいなことについては、あまり考え過ぎないようにしているんです。ということで、いまは、そのことをすごく考えていますよ」
「あのですね、このあとポルトガル・マスターズに出ますけど、もう一勝してやるぞと考えることはしませんよ、もちろん勝つためにがんばりますけどね。ライダーカップのことは考えません。そうなるなら、そうなるということで。」

マッチプレイが好きだというダイソン、アマ時代のウォーカーカップではP・ケイシー、L・ドナルド、G・ストームらとともに戦って、アメリカに勝利している。目の前のゲームに集中して燃えるタイプなら、ライダーカップのプレッシャーにも強そうだ。