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渋野日向子の全英女子優勝は「アスリート本来のメンタルの在り方を見せつけた」
2019年8月27日(火)午後2:00
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AIG全英女子オープンで優勝した渋野日向子選手。CS放送ゴルフネットワークで同大会の中継解説を務めたプロゴルファー・ティーチングプロで、東京大学大学院や筑波大学大学院でスポーツ心理学を学んだ菅野仁美プロが、同局の特別番組「アフターメジャー〜2019全英女子オープンを振り返る〜」の取材のなかで、渋野選手のメンタルの部分やスイングについてのコメントをいただきました。
「明るくポジティブである」ことが集中とリラックスを生む
渋野選手は国内でも2勝していますが、その時からただならぬ伸びしろを感じていました。終始にこやかで、ギャラリーを惹きつけるスター性があったんですね。大舞台に立てば立つほど光るものがあるように感じました。私は専門のメンタルの分野から観ていたんですが、親御さんもスポーツ選手だったということで、ポジティブな感覚を育てていたと思うんですね。「内受容感覚(ないじゅようかんかく)」といって、「人は楽しいから笑うのか、笑うから楽しくなるのか」というような話なんですけど、ゴルフの場合は、プレッシャーがうんと掛かる場面で「笑う」という動作をすると、楽しくなるということがあるんです。無意識かもしれませんが、そういうことを実践していたと思います。ゴルフって、「仕事仲間とはするな」といわれるくらい、自分自身の性格が表れちゃうじゃないですか。その本質が、窮地に陥ったときにも出たと思うんですね。
勝負の分け目は、あの4パットだったのかなと思います。3パットだったら考えることもあると思いますけど、4パットだったから吹っ切れるのが早かったのではないでしょうか。ある統計をとった時に、「1番ホールでボギーだった人の優勝する確率が高かった」ということがありました。彼女は(4パットについて)「やっちまった」と言っていましたけど、「やっちまった」ことで我に返るというか、がっかりするより笑えちゃったんじゃないか、冷静になる部分があったんじゃないかと。その後は、波に乗っていきましたよね。ゾーンに入っていくというか。序盤だったところが、よかったですね。
それから、彼女のストロングポイントはやはりスイングです。スイングの身体能力が基本的に高い、世界レベルにあると思います。他の選手と比較してもキレがあって、男子並みに体がよく使えています。あと反射神経がもの凄くよさそうに思います。日本の中でも突出していると思います。
ゴルフのスイングって、私は形にハマればいいショットがでるとは思っていなくて、すべてが「修正」のゲームだと思っているんです。例えば、毎回スイングは違っていて、バックスイングのトップの位置でも、自分の筋肉や腱とか骨とか、無数にあるものが協調してあってインパクトを迎えると思っているんです。それを反射的に修正しながら打っているようにみえる彼女のスイングがすごいと思いました。ナイスショットとは紙一重で、毎日の体調や気温など条件も違うなか、すべての体のコーディネーションがうまい、調和している、修正できている。そこが彼女の1番の強さだと思いました。
プロスポーツ選手というのは、「笑うことはいけない」という時代が長く続いたんです。「楽しんでやる」という言葉自体も、否定されていたわけです。でも彼女が勝ったことで、アスリートの本来のメンタルの在り方、「明るくポジティブである」ということが集中とリラックスを生むということを見せつけた試合だと思うんですね。
渋野選手の優勝によって、アスリートの在り方が変わっていくことを期待しています。
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